新たに4成分が第一類医薬品から指定第二類医薬品に移行

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2015年7月31日に開かれた薬事・食品衛生審議会(※以下 医薬品等安全対策部会)において、現在第一類医薬品に指定されている4成分が指定第二類医薬品に移行されることが決まりました


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医薬品等安全対策部会で決まった内容をさらに詳しく

医薬品等安全対策部会で決まった内容をさらに詳しく医師による処方箋がなくても購入することができる市販薬は現在、副作用や相互作用の観点から要指導医薬品と一般医薬品に分類されます。

さらに一般用医薬品は第一類医薬品、第二類医薬品、第三類医薬品に分類されます。

要指導医薬品は、医療用医薬品と同成分のものが初めて市販薬として販売されるようになったものや、毒薬、劇薬など取り扱いに十分注意を要する医薬品が含まれます。薬剤師による対面販売や書面による説明が義務付けられ、インターネットや郵送での販売はできません。

一般用医薬品は全てインターネットや郵送での販売は可能ですが、リスクが高いものから順に第一類、第二類、第三類に分類されます。第一類医薬品は一般用医薬品の中で最も注意を要する医薬品であり、薬剤師による対応・情報提供、書面による説明が義務付けられています。

第二類医薬品と第三類医薬品は薬剤師だけではなく登録販売者でも販売可能です。第二類の方が第三類より副作用、相互作用などの項目で安全性上、注意を要するため、専門家からの情報提供が努力義務となっています。

今回、4成分が移行となった指定第二類医薬品とは、第二類医薬品の中でも特別注意が必要な医薬品で、陳列方法や禁忌などの記載方法に指定があります。ただし販売方法については第二類と同じ扱いになるため、登録販売者による販売が可能になります。

医師の処方箋なしでも医薬品を購入できる動き

医師の処方箋なしでも医薬品を購入できる動き医療用医薬品を医師の処方箋なしで購入することができるようにしていこうという動きは「スイッチOTC」と呼ばれ、10年ほど前から急速に進んでいます。

スイッチOTCの目的は医療費の削減です。国民それぞれが軽い症状であれば、病院にかかることなく市販薬で対応することにより増大する医療費を抑えていこうという目的があります。

この軽度な症状の診断や治療を自分で行い、自分で自分の健康を守ることを「セルフメディケーション」と言います。現在、先進国ではセルフメディケーションが基本となっています。

スイッチOTCが始まった初期では、禁煙補助薬や育毛剤などの生活改善薬が多く見られましたが、胃酸を抑えるガスターや痛み止めのロキソニンなどの症状緩和薬も発売されるようになりました。最近では花粉症などに使用される鼻炎治療薬のアレジオンやアレグラなども市販薬として販売されるようになっています。

段階を踏んで医療用医薬品は市販薬となる

段階を踏んで医療用医薬品は市販薬となる医療用医薬品が市販薬として販売されるときには段階があります。

最初、市販薬として初めて販売される時は「要指導医薬品」として薬剤師による対面販売できちんと説明をして販売されます。販売後、数年しても大きな副作用や相互作用などがない場合には一般用医薬品に移行されます。

リスクが高いと思われるものは第一類医薬品となりますが、それほどリスクが高いとみなされないものは第二類指定第二類医薬品などに分類されます。一度、第一類医薬品に指定されたものでも何年かすると第二類などに移行され、登録販売者でも販売することが可能になることもあります。

医薬品のリスク分類は販売された後の調査結果を受けて医薬品等安全対策部会で審議され、厚生労働省から通知されます。今回の医薬品等安全対策部会では鼻炎治療薬3成分、メキタジン(商品名ストナリニ・ガード)、エピナスチン塩酸塩(商品名アレジオン10)、ペミロラストカリウム(商品名アレギサール鼻炎)と生理痛治療薬イブプロフェン・ブチルスコポラミン臭化物(商品名エルペインコーワ)の4成分が第一類医薬品から指定第二類医薬品に移行になることが決まりました。

多くの薬剤師が想定していたこととはいえ、スイッチOTCの動きが急速に進んでいることを感じていると思います。今回指定第二類に移行となった4成分はいずれも発売後4年近くが経過しています。指定第二類であるイブプロフェンと第二類であるブチルスコポラミンの合剤であるエルペインコーワの指定第二類への移行は当然といえば当然ですが、その他3成分が全て鼻炎治療薬であることは、将来的に花粉症治療薬を市販化していこうという動きを見て取ることができます。

花粉症治療薬以外でも今年5月に薬事・食品衛生審議会要指導・一般用医薬品部会でロキソプロフェンナトリウム水和物の外用消炎鎮痛剤が要指導医薬品として承認されたことからもわかるように湿布などの外用薬もスイッチOTCが進んでいくと考えられます。

しかし今後、スイッチOTCが欧米並みに進んでいくと考えている薬剤師は少ないのではないでしょうか。それにはいくつかの理由があります。

医療用医薬品と同成分の市販薬の金額の差

医療用医薬品と同成分の市販薬の金額の差まず一つ目の理由として金額の問題があります。医療用医薬品と同成分の医薬品が市販薬として販売されるようになっても、医療用医薬品の方が削除されるわけではありません。

そのため現在の医療保険制度では市販薬として購入するより病院にかかって処方してもらった場合のほうが、価格が安くなることも少なくありません。

特に今回指定第二類に移行になった鼻炎薬などは値段の高いものが多く、定価では一日あたりアレジオン10が約170円、ストナリニ・ガードは約178円、アレギサール鼻炎は約125円かかります。花粉症などで服用する場合は長期間服用することが多く、もし60日間服用したとするのであれば一番値段の安いアレギサール鼻炎でも7500円、その他の2種類であれば1万円以上かかってしまいます。

最近では花粉症治療薬の早期服用が有効という意見も多いことから、これ以上の期間服用する患者も多いと考えられます。病院や薬局による差や処方される日数などにもよって異なりますが、服用する期間が長期間になるほど、病院にかかった方が負担金額が低くなる傾向にあります。

さらに最近ではジェネリック医薬品もたくさん出ているため、ジェネリック医薬品に変更すればかなり負担金額を減らすことも可能となります。

また市販薬として販売されているものは、医療用に比べて用量が低く設定されているものも少なくありません。アレジオン10やアレギサール鼻炎は医療用であれば、大人の通常容量の半分の量で販売されていますし、胃酸抑制薬として有名なガスター10も医療用であれば20mgのものがよく使用されていますが、市販薬は半分量の10mgです。

ただ最近では、医療用と同じ容量のものも販売されることが多くなってきており、ストナリニ・ガードやロキソニンS、アレグラなどは、医療用と同じ成分が同じ用量で含まれています。この傾向は今後更に続いていくと考えられ、その分市販薬であっても副作用や相互作用について医療用と同程度の注意が必要となることが推定されます。

登録販売者制度の導入に伴う薬局のあり方

登録販売者制度の導入に伴う薬局のあり方2つ目の理由として登録販売者制度の導入に伴う薬局のあり方の問題があります。

登録販売者制度とは2009年の改正薬事法で新たに設定された資格で、登録販売者は要指導医薬品と第一類医薬品を除く市販薬の販売・情報提供などを行うことができます。

試験や資格の取得は都道府県ごとに行わており、以前は実務経験などの受験資格が必要でしたが、平成27年度以降はこの受験資格が廃止されたため、合格後に2年の研修を受けることで年齢・学歴に関係なく登録販売者として働くことができるようになりました。

登録販売者制度が導入されたことで医薬品がコンビニで購入できるようになったり、薬剤師が不在の時であっても消費者は第二類・第三類の医薬品について、情報提供を受けることができるようになりました。

しかし一方でドラッグストアチェーンなどでは、人件費削減のために登録販売者のみで薬剤師不在の店舗が増えてきています。もちろん薬剤師不在の店舗では要指導医薬品や第一類医薬品を販売することができません。

しかし薬剤師を置く人件費と要指導医薬品や第一類医薬品を販売できないことによる損益を天秤にかけると、薬剤師を置かないメリットの方が大きくなってしまうのです。結果として薬剤師不在、第一類以上の取り扱いなしというドラッグストアが増えてしまいました。

これにより24時間営業のドラッグストアやコンビニでの医薬品購入など利便性は上がりましたが、消費者が要指導医薬品や第一類医薬品を購入しようとする際は、薬剤師がいるドラッグストアを探すか、病院の門前薬局で購入する必要が出るようになってしまいました。

同じ薬剤師なのにまるで違う業種

同じ薬剤師なのにまるで違う業種3つ目の理由としては、調剤薬局の薬剤師とドラッグストアの薬剤師というものが同じ薬剤師であっても違う業種のような立場になってしまっていることが挙げられます。

業務内容の違いも大きいため、調剤薬局とドラッグストアは薬剤師の間では業種が分かれているイメージがあります。

さらに調剤薬局であっても、処方箋を中心に扱ういわゆる「単独店」と、ドラッグストアに併設されており受ける処方箋数が少ない「併設店」に分かれています。このため、働いてきた場所によって薬剤師の知識も異なります。

一般の人は、薬剤師といえば医療用医薬品も市販薬についても何でも知っていると思っているのでしょうが、実際の現場ではそうではないのです。

入社した時からドラッグストアで勤務している薬剤師は、医療用医薬品の商品名を聞いても薬効成分の名前が分からないなど、調剤薬局で働いている人に比べて医療用医薬品に疎い面はあります。逆に調剤薬局の薬剤師は、市販薬の商品名を言われても薬効成分の名前が分からないということがあります。

調剤薬局では市販薬を扱っている場合でも調剤業務が重視されて、市販薬についての関心が薄いのも事実です。調剤業務が多忙であるせいもありますが、スイッチOTCの動きは薬剤師の職能を発揮できるチャンスであるにも関わらず、薬剤師側からの積極的な行動が見られないのも調剤や病院での業務などが専門性の高い仕事であるという認識が広まっており、市販薬について軽視する傾向があるせいではないかと思われます。

このような市販薬軽視の傾向からか、まだ現在の状況ではスイッチOTC化によって薬剤師の仕事が大きく変わる可能性があると考える薬剤師はほとんどいません。

スイッチOTCの拡大には薬剤師の力が必須

スイッチOTCの拡大には薬剤師の力が必須しかし今後さらにスイッチOTC化が広がっていくためには、薬剤師の力は必須になります。

今は市販薬として販売されるものは急性症状に対処するものとされていますが、議論の中では降圧剤や高脂血症治療薬などといった生活習慣病に関する薬を市販しようという動きも出てきています。

長期的に服用する薬を市販するためには、市販薬も含めて併用薬や相互作用のチェックが必要となってきます。現在使用されているお薬手帳では、市販薬の服用等は患者個人に管理が任されています。しかし専門家でなければ、何が必要かということが分からないことが多々あります。

薬局で購入した薬についてもお薬手帳に記入をするか、患者個人に任せる形であっても、もう少し簡単に必要事項を記載できる形を取らなければ、今後、健康被害が起きてくる可能性はあると考えられます。また生活習慣病に関する薬を市販するのであれば、血圧やコレステロール値など簡易検査を薬局で行うことができるようにしたり、値による薬の使い分けについて今以上の知識が薬剤師に求められるようになると思います。

一概に降圧剤とか高脂血症治療薬と言っても作用の仕方が違い、患者の検査値などによって最適な薬は違います。薬剤師は薬から症状を予測することができても、まだ検査値から最適な薬を患者にアドバイスできる人はあまりいません。

しかし一方では、薬剤師が検査値から薬を選択して患者に勧めるということは診断にあたると考えられるため、薬剤師の職域ではなくなってしまいます。このため現在でも、医師側からの反対が強くあります。

また薬剤師自身も、医師の職域に入ってしまうことを怖れ、検査値などの情報を得ても値を薬歴に記載するにとどまり、患者にコメントをすることを避ける傾向にあります。非常に難しい問題ではありますが、将来的には簡易検査を薬局で行ったり、検査値から患者の状態を判断するスキルは、薬剤師に必要なものになってくると考えられます。

患者の健康のために薬剤師は積極的な行動が必要となってくる

患者の健康のために薬剤師は積極的な行動が必要となってくる現在の急速なスイッチOTCの動きに対して、鍵となるはずの薬剤師がこのまま無関心であれば非難の対象となっていくことは十分に考えられます。処方薬についての知識を深め、専門性を高めることは非常に重要な事です。

しかし市販薬も含めた幅広い知識を持って患者に対応するということ、進んでいくスイッチOTCの動きに柔軟に対処できる薬剤師であるということは今後もっと重要になっていくでしょう。

スイッチOTCの推進は、門前薬局中心となっている現在の医薬分業の問題やかかりつけ薬局の推進にもつながっていく問題です。薬剤師が医師や患者から本当に必要とされる職業になっていくには、市販薬に対する軽視をやめ、積極的に患者の健康に関わっていく必要があるのではないでしょうか。

       
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