事務による無資格調剤に厚労省が違反であると通知

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薬剤師免許を持たない者の調剤行為について通知が出た

厚生労働省医薬商品局総務課は6月25日付で、一般社団法人日本病院薬剤師会会長と各都道府県等の関係部署宛に「薬剤師以外の者による調剤行為事案の発生について」という通知を出しました。

この通知の内容は以下の通りです。

ある調剤チェーンの薬局で薬剤師資格を持たない調剤事務が薬剤師指導の下、軟膏の混合調剤を行っていることが判明したため、薬剤師免許を持たない者が軟膏の混合や散剤、水剤の調剤を行うことは法律違反になるので今後はこのようなことが起こらないよう関係各所に指導するよう通告した。

参照⇒日本病院薬剤師会掲載

 

というものです。


●このページの目次


ポイントとなる点

ポイントは「薬剤師の指導下、つまり薬剤師が見ているところでも薬剤師資格を持っていない人が調剤を行ってはいけないと明記されたこと」「軟膏、散剤、水剤の調剤しか違反であると記されていない点」です。

この通知が出された背景には近年、薬局において薬剤師資格を持たない調剤事務が調剤する機会が増えてきているという現状があります。

今回の通知で述べられているように、薬局や病院における調剤行為は法律によって規制されています。この法律は薬剤師法第19条で、「薬剤師でないものは、販売または授与の目的で調剤してはならない。」と明記されています。例外は医師、歯科医師または獣医師が、自分の処方箋の内容を自分で調剤するときのみとされています

また今回の通知では、医薬品医療機器等法8条「薬局の管理者は、保健衛生上支障を生ずるおそれがないように、その薬局に勤務する薬剤師その他の従業者を監督し、その薬局の構造設備及び医薬品その他の物品を管理し、その他その薬局の業務につき、必要な注意をしなければならない。」と同法9条「薬局開設者は、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師から交付された処方箋により調剤された薬剤につき、薬剤師に販売させ、又は授与させなければならない。」にも違反しているとしています。

誰に責任はあるのか

今回の通知の内容では、現場で働いている薬剤師や調剤事務にのみ責任があるのではなく、薬局開設者つまり調剤チェーンのオーナー側にも問題があるということです。つまり人件費削減や薬剤師不足の解消のため、調剤事務による無資格調剤を推進していた会社側にも責任があると言っているのです。

現在の調剤薬局において、薬剤師資格を持たない事務職員が調剤を行うことは珍しいことではなくなってきています。資格のない人間が薬に関わる仕事をするなんてもってのほかと思う人もいるかもしれません。日本人の感覚だと専門性の高いことは専門家が行うべきであるのが当たり前かもしれません。

しかし現実は、人手不足から薬剤師資格を持たない人間でも、調剤を行うことがあるのです。これが実情です。

欧米ではテクニシャン(調剤補助)という存在がいる

医薬分業が本格的に行われている欧米にはテクニシャン(調剤補助)と呼ばれる職業があり、薬局や病院などで薬剤師に代わり調剤などの業務を行っています。

テクニシャンが行う業務は国やアメリカでは州によって違いがありますが、錠剤の調剤はもちろんのこと散剤・水剤の調剤、在庫管理、処方入力や保険請求など多岐にわたります。さらにはイギリスでは患者に薬を渡す仕事まですることがあります。日本で薬剤師が行っているほとんどの仕事を欧米ではテクニシャンが行っているのです。

では一体、薬剤師はどのような仕事を行っているのでしょうか。

薬剤師は手技的な調剤を行わない代わりに、もっと薬の専門家としての仕事を行います。欧米の薬剤師は薬局や病棟での薬の説明や薬が適正使用されているかどうかのチェックだけでなく、処方薬について医師に提言を行ったり場所によっては健康診断や予防接種まで行います。

日本でのテクニシャン(調剤補助)導入について

日本においてもテクニシャンを導入して薬剤師はもっと専門的な仕事に注力すべきであるという議論は10年以上前からされてきました。薬剤師不足は以前から言われていますが、ここ10年ほどの間は特に薬学部6年制移行に伴う薬学生の新卒が出ないいわゆる「空白の期間」や6年制導入後の国試合格率低下などによって、薬剤師不足はさらに深刻な問題となっています。

人員不足と同時に薬剤師の給与が高いという問題もあります。しかし高齢化から処方量は年々増え、さらに薬局による在宅業務の推進、病院の診療時間延長などもあり薬剤師の業務は増えてきています。

このような人員不足解消と人件費削減のため、ここ数年薬剤師指導の下、資格を持たない調剤事務による調剤が広まってきています。薬剤師が指導、監督をすることで薬剤師法19条は満たされていると解釈され、厚労省などもはっきりと言及しなかったため、薬剤師指導の下の事務調剤はグレーゾーンとされてきました。

しかし今回初めて、「軟膏、散剤、水剤の無資格調剤は違反」と厚労省が通知したことで一つの線引がされたわけです。

今回の通知で思うこと 「やっぱりな・・・」

このニュースを聞いた最初の感想は「やっぱりな」でした。

多くの薬剤師が同じように感じたと思います。日本における事務調剤と欧米のテクニシャン制度は大きく違います。何よりも欧米のテクニシャンは州や国によって違いはあるものの、それなりのトレーニングを受け、試験をクリアして働いています。

日本の事務調剤は医療事務として採用した人物に現場の薬剤師がやり方を教えて調剤をしているにすぎません。

また今までははっきり言及されていなかったため、グレーゾーンがどんどん拡大して錠剤やカプセルなどPTPになっているものを集める計数調剤のみであったのが、段々と散剤や水剤、今回の事例のように軟膏の混合、一包化調剤などまで、一部の薬局ではありますが行われていると聞いたことがあります。

そして人件費削減のために事務による無資格調剤の範囲をどんどん拡大する会社に対して、現場の薬剤師も事務も不安を持つ人は多くいます。資格を持っていないのに調剤をして患者に健康被害が出てしまったらどうしよう、法律違反をしているのではないかと悩んでいる調剤事務、事務によって調剤された薬を監査するため薬剤師が調剤した薬を監査する以上のプレッシャーがかかる薬剤師など現場ではグレーゾーンでの業務に大きなストレスを感じているのです。

薬局によって異なる現状

現場ではPTPのままであれば許容範囲、軟膏にせよ水剤、散剤にせよ、封を開けて計量なり一包化なり何らかの調剤をするのであれば薬剤師でなければいけないという空気はあります。理由は間違えた時にやり直しがきかないというのもありますが、何より間違えた時に分かりにくいのです。

例えば散剤であれば同じ白色をしていたら間違えて混ぜてしまっても後からチェックしてもわかりません。水剤や軟膏も散剤より色の違いがあるものが多いのですが、やはり混合してしまえばわかりづらくなります。この「監査でチェックしても間違っているかどうかわからない可能性がある」という危険性が非常に怖いのです。

薬剤師によって考え方が異なるがゆえに

しかし中には、「なぜ事務員に散剤や水剤、軟膏の調剤をさせてはいけないのか?」という意見を持つ薬剤師もいると思います。

なぜなら、現在では調剤薬局でも機械化が進み、調剤ミスを防ぐ様々な機器が導入されていて、錠剤などを集める際にバーコードで入力情報との正誤を判断するピッキングシステムや軟膏や散剤、水剤など秤量した薬剤と量を記録する秤量システムなどがそれに当たります。そのようなシステムを使用すれば、薬剤師でなくとも正確な調剤ができ、また監査時にもミスを見過ごすということはないという意見です。

薬剤師によって法律の解釈の仕方が異なるがゆえに

また法律の解釈という点では、「無資格者の事務員が調剤を行うことは違法であるのに、自動分包機や軟膏混合機など機械で調剤を行うことは違法ではないのか」などという揚げ足を取るような意見をいう薬剤師もいると思います。このような意見が出てくるのは調剤の内容が薬局によってかなり差があるという背景があると考えられます。

一般の人は、薬局で出す薬というと錠剤やカプセル剤などPTP包装になったものが多いイメージがあるかと思います。しかし実際には、どのような科の処方箋を主に受けているかによって調剤する薬の種類は大きく異なります。

眼科の処方箋を多く受けているのであれば目薬が、小児科や耳鼻科の処方箋を多く受けているのであれば散剤や水剤が、皮膚科の処方箋を多く受けているのであれば軟膏が多く出ます。小児科や皮膚科の処方箋を受けている薬局であれば9割以上が散剤や水剤、軟膏で占められ、錠剤を触ることが一日のうちで数えるほどしかない、などということもよくあります。

錠剤など数を数えて集めるだけの薬に比べて、混合して調剤しなくてはいけないものの方が手間も時間もかかることは容易に想像できると思います。特に患者が増える冬場などは、本当に猫の手も借りたいくらい忙しくなります。

そのような薬局では、事務が錠剤を集めて良いのであれば散剤や水剤、軟膏の調剤に関わっても良いだろうという意見が出てくるのは自然な流れだと思います。もちろん無条件にという薬剤師はいないでしょう。薬剤師が量った散剤をまくだけなら、もしくは、量り終えた軟膏を混ぜるだけなら、薬剤師が要所をチェックしていれば、というように何かしら条件がついているはずです。しかし、今回の通知はそれらを全て含めて「無資格者による散剤、水剤、軟膏の調剤」を違反と言っています。

今回の通知内容は曖昧だと思う

しかしこの通知自体、非常に曖昧で逃げの姿勢が強いものであると私は思います。この通知は「無資格者による散剤、水剤、軟膏の調剤は違反」であるとしていますが、暗に錠剤やカプセル剤などの計数調剤つまりピッキングは許容しています

実際、錠剤のピッキングについてはこの通知で無資格調剤が認められたと取る薬剤師は多いのではないでしょうか。無資格調剤は認めないが条件付きで許容するということでしょう。さらに一包化などについては何も言及していないため、今後さらに議論を呼ぶのは必須のことと言えます。

本来であればドラッグストアにおいて登録販売者を認めたように、調剤薬局や病院でテクニシャンを制度として認めてしまえばよいのでしょう。きちんと研修プログラムを作り、試験をして合格した人をテクニシャンとして雇用すれば良いのです。

そうすれば、事務員として入社したにも関わらず、人件費削減のために薬剤師より給料の安い事務員が調剤をさせられるということもなくなります。

ではなぜ厚労省は曖昧な通知を出すだけで、以前から言われてきているテクニシャン制度を導入しないのでしょうか。

テクニシャンが日本で導入されない理由

日本でテクニシャンが導入されない理由として一番大きなものは、「薬剤師の職域の狭さ」があります。薬剤師には処方権がありません。実際に「薬剤師に処方権はない」と明記された法律はありませんが、薬剤師方23条には「薬剤師は、医師、歯科医師又は獣医師の処方せんによらなければ、販売又は授与の目的で調剤してはならない。」とあり、医師等による処方箋がなければ調剤することができない旨が記されています。

処方箋の内容におかしな点があれば処方元の医師に問い合わせること(疑義照会)はできますが、医師が変更しない限り、たとえどれだけ間違いが明白であっても、処方箋にない薬を調剤して渡したり処方箋の内容を変えることはできません。

このため日本における薬剤師の仕事は調剤に限定されており、テクニシャンの導入は薬剤師の手間を省くのと同時に薬剤師の仕事を奪ってしまうという諸刃の剣になってしまいます。かと言って薬剤師の職域を広げることは薬剤師だけでなく医師や看護師など他の医療関係者にも関係してくるためまだまだ議論が必要です。

また薬剤師の職域を広げることは今まで以上の専門知識が必要となり、生涯に渡る研鑽(けんさん)が必要不可欠です。そのため薬剤師の中でも職域が広がることに対して不安を抱いたり、必要がないと考える人がいるのも事実です。

薬剤師会の動き 時代とともに変化

薬剤師会など上の方の機関では、欧米をモデルケースとして、予防接種を薬局で薬剤師が行うようにするとか、降圧薬など長期的に服用するような薬の処方を薬剤師が行うようにするなどといった、かなり発展した議論が実際に行われているようです。

しかしそこまで本格的でなくとも、花粉症薬や湿布などを全面的に市販薬に移行するとか、本来であれば医師法違反であるのに多くの病院でまかり通っている診察なしの処方などについてのみ限局的に処方権を薬剤師に与えるなど日本なりのやり方があるのではないでしょうか。

最近では在宅医療への参入など薬剤師の仕事、薬局の役割は段々変わってきています。迫り来る高齢化社会に向けて薬剤師の役割は大きな岐路にあると言えます。薬剤師の仕事が相変わらず調剤のみ限定されてしまうのか本格的なテクニシャン制度が導入され薬剤師の医療人としての職域が広がるのか、今回の通知が後者の動きを後押しするものであることを願います。

そうでなければ計数調剤のみの薬剤師は薬事法に守られただけの高給取りでしかなく、時代の流れの中で淘汰されていってしまうのであろうと思います。

       
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